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※本誌ネタ・マイナスより
「好きだったんですよ」
乙骨くんはそう言って私を見た。彼、乙骨くんからその言葉を聞くのは二回目のことだった。一度目に聞いた時、私は彼の想いを丁重に断った。好きな人がいるから。なんともありきたりな答えだった。その好きな人は、名前さんのことを好きなんですか。乙骨くんは「好きな人」が誰だか気付いた上で、そう言っていたのだと思う。
五条が私のことを好きでいたかなんて、わからなかった。告白する隙も与えてくれなかったし、私が好きだという素振りを見せると笑って頭を撫でた。それ以上は言ってくれるな、と拒否しているように見えた。だから私は食い下がることができなかった。五条の記憶を乙骨くんが受け継いだ今、乙骨くんは私のことを好きだと言った。それは多分、五条の想いなのだ。
「そっか」
だから私が幸せになれるわけではない。乙骨くんが五条の記憶を継いでいるということは、五条は死んでいるということなのだ。だからと言って、想い人を亡くした私に言い寄るような乙骨くんではなかった。乙骨くんの独白は、私を虚しくさせ、乙骨くんを失念させ、五条の本意を暴くものだったのだ。五条はこのことを想定していたのだろうか。私のことなどどうでもいい、と思っているかもしれないし、もしかしたらこの状況を見て笑っているかもしれない。そんなのずるい。乙骨くんも、私も、誰も報われないのに、どうして五条だけが全てを知っているのだろう。私達は等しく寂しくて、恋焦がれていた。目の前の五条の姿をした乙骨くんに泣きつけば少しはその寂しさを埋められたかもしれないけどそうする気にはなれなかった。私も、乙骨くんも、五条がもういないことをわかっていたからだ。私達は五条によって結びつけられ、五条によって背反している。
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