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「月が綺麗だね」
そうこぼしてしまったのは、カイザーを連れて市街へ出かけた時のことであった。正確には、外へ出かけたいと言ったカイザーに私が連れられていると言った方が正しい。カイザーの暇を埋めるべく運転手になり、リフレッシュできそうな眺めのいい場所へ連れてきたのだ。
とはいえそこには月くらいしかなく、私は思わず先程の言葉を口走ってしまった。言ってからその意味に気付いたけれど、どうせ外国人のカイザーは知らないだろう。
カイザーの反応を待つ数秒間、鼓動がやけにうるさい。
「俺の方が綺麗だと思わないか」
「そうだね……」
わかってはいたが、カイザーはナルシストだった。私の独白が告白と勘違いされることはなく、まあよかったのだ。
ところがブルーロックに帰宅してからというものの、やたらとカイザーは私に絡むようになった。小間使いとして用を頼むのは元からあったものの、その際に体に触れてきたり、用もないのに話しかけてきたりする。カイザーの距離はただの選手と職員のそれではないのだ。
「急に何!?」
耐えきれずに私が言うと、カイザーは何を言っているのだとばかりに目を丸くした。
「告白してきたのはお前だろう」
思い当たるのは一つしかない。あの日月が綺麗だと言ったことだ。
「知ってたの?」
「俺が惚れた女の言葉を勉強しないとでも?」
カイザーは得意げに笑い、それから「味噌汁を作れ」と言った。毎日あなたの味噌汁が食べたい、というのも有名な告白のセリフだった気がする。だから何で、そういう日本語ばかり知っているのだろう。私は頭が痛い思いで味噌汁を用意しに走った。こんな時でも選手の命令を聞かずにはいられない職員の立場を憎く思った。
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