▼ ▲ ▼

 まさか自分がこんな間違いをするとは思わなかった。と言えるのは私ができた人間だからではなく、今片思いをしている相手にそれなりの執着があるからだ。私は簡単に体を許さないし、今現在抱かれたい人は一人しかいない。昨日もその彼に手を引かれたと思ったのに、目が覚めたら隣にいたのは知らない男だった。勿論私が好意を寄せる男、南雲さんではない。

 男は深く眠っていた。今私が逃げても、その際に財布から札を引き抜こうとも気にせず眠りこけているのだろう。実際にそんなことをする気はないが、私のことを大して気にかけもしない男の誘いに乗ってしまったのだという罪悪感が重くのしかかる。

 南雲さんに何と言おう。私と南雲さんは付き合っているわけではないのだから弁明する必要などないのだけど、私は言い訳を考えずにはいられなかった。私は南雲さんに正直でいたいのだ。それに、南雲さんに隠し事などできないだろう。南雲さんがこの事実に興味を抱いてしまったら、南雲さんはすぐに真実へ辿り着く。僕を好きだって言っといて、他の男と寝たんだ。そう言っている南雲さんの顔が目に浮かぶ。

「南雲さん、ごめんなさい、南雲さん……」

 私は遂に泣き出した。昨日の軽率な行動を悔やんでも今更だった。南雲さんは怒るでもなくただ私を見限るのだろう。タイムリープできるなら昨日に戻りたい。

 そう思っていた時、突然「ばあっ」という声と共にベッドのスプリングが跳ねる音がした。呆気にとられてそちらを見ると、顔だけ南雲さんになった先程の男がシーツを被って脅かすような格好をとっていた。混乱する頭の奥で、私は南雲さんが変装を得意とすることを思い出した。

「南雲さん、だったんですか?」
「そうだよ」
「何で変装なんて……」
「君がどうするのか見たかったから」

 南雲さんは悪びれないように言った。流石に今回はタチが悪い。一度素顔を晒して寝ておいて、他人のふりをするなんて。そこまでして確かめたいことなどあるのだろうか。

「何で私がどうするのかなんて気にするんですか」

 南雲さんはその丸い瞳を瞠り、何がわからないのか不思議だといった調子で続けた。

「そりゃあ、付き合うにあたって。どんな子かなって」
「え」

 私は交際の申し出などしていない。好きだと気付かれていることには驚かないけれど、南雲さんが付き合っていいと思っていることには驚いた。南雲さんも好きなのかはわからない。でもこの好機を逃す気はない。

 ベッドの上で百面相をする私に、南雲さんが「服着なよ」と言った。とりあえず、私達は話し合う必要があるだろう。南雲さんは二言三言で終わらせてしまうかもしれないが。