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隣の席の苗字名前は、授業中教師に当てられやすい。多分そういう出席番号の元に生まれてきたのだろう。そうなった時、木兎は必ず答えを教えてあげるようにしている。自分の成績に自信があるわけではない。学園ドラマを見ていて、教師に指名されて困っている女子生徒に颯爽と答えを教える若手俳優を素直に格好いいと思ったのだ。それから、木兎はその俳優を真似している。
「苗字、この答えこれ!」
木兎は(自分にとっては)小さな声で答えを教える。苗字は小さく頷き、黒板に木兎が言った通りの答えを書いた。自分がノートの片隅に書いた汚い文字が、苗字の手によって丁寧に黒板の上に書かれているのが不思議な心地だった。
苗字はチョークの粉を払い、元の席に戻ってくる。教師は苗字の書いた数式を見た後、赤で答えを書き足した。
「最後の計算違うぞ、これは――」
木兎の答えは間違っていたのだ。木兎は手を合わせ、頭を下げる。
「ごめん!」
「ううん」
苗字は笑った。苗字にとって、木兎の言った答えが合っているかどうかや、自分が恥をかくことはどうでもいいのだ。ただ、木兎が自分にアピールしてくることが可愛くて、その通りにしている。木兎は、苗字が木兎のためにわざと間違った答えを書き続けていると知ったら驚くだろうか。それよりもまずは、先週配られた進路希望調査票を出さなくてはいけない。いつも間違った答えばかり聞いている進路担当の数学教師は、苗字の進路希望を聞いて驚くだろう。その顔もまた、楽しみなものだ。
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