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「かき氷のシロップって全部同じ味らしいよ」

 言ってから私は、これではロマンがないことに気付いた。

 時刻は夜七時。あと三十分後に始まる花火を前に、私達は夜店を冷やかしている。かき氷を食べよう、と言ったのは暑そうにしていた私への赤葦くんなりの気遣いかもしれない。訂正しようかと思った時、それを遮るように赤葦くんが言った。

「じゃあ試してみる?」

 俺はブルーハワイ、苗字さんはイチゴでいいかな。私は頷くことしかできず、いつの間にかお金を支払われているままカップを受け取る。どう食べてみても、イチゴはイチゴだ。ブルーハワイの味も、メロンの味もしない。

 赤葦くんと目が合うと、彼は自分のかき氷をすくって私に寄越した。私がそれを口に含むと、赤葦くんは同じことを私に要求した。私が一度口に運んだスプーンで、赤に染まった氷を彼の口元に運ぶ。

「なんか恥ずかしいよ」

 もう、味がメロンかブルーハワイかなんてどうでもいい。この人混みの中で私達に注目している人達なんていないだろうに、私は羞恥に耐えられなかった。赤葦くんは真面目にかき氷を咀嚼している。今彼の頭の中にあるのはかき氷の味のことなのだろうか。それとも、私のことだろうか。

「今更じゃない? 異性と祭りに来るって、俺はもうカップルみたいだと思ってるけど」

 屋台の明かりが赤葦くんを照らす。オレンジに染まった赤葦くんの顔は、いつもより艶っぽく見える。

「苗字さんはそうじゃない?」

 祭りに誘って、それを承諾した時点で、私達の間に下心はあるのだ。私は必死に、見ないふりをしていただけで。

 もうその必要はないのかもしれないと思った時、私の口は自然と動いた。

「そう、です……」
「じゃあ本当になろうか、カップル」

 赤葦くんは口元だけで薄く微笑みかけた。私は頷くだけで精一杯だった。好きの言葉も何もなかったけれど、食べ終えた私の手を赤葦くんが直に触れて引いたことで、私達は付き合っているのだ、と実感した。