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未来から来たと言う五条は、私の顔を見るなり泣き出した。
「名前!」
大袈裟に抱きしめられながら、私は脳裏で冷静に考えていた。多分、未来で私は死んだのだ。そうでなければ過去の私に会ってこれほど感情を荒げる必要性がない。
五条はヘアセットの苦労も考えず私の頭を撫で回した。五条が私を愛でれば愛でるほど、私の気は沈んでいった。未来の五条は今よりおどけていて、大人の余裕のようなものがある。その五条を、私は見られないのだ。
未来から来て何日経ったのかわからない。五条は私を猫のように可愛がった。この時代の五条からは考えられない仕草だった。五条がどこかの段階で私に好意を抱いているのではないかということはさして重要ではなく、私はやはり呪術師として半端に終わるのだと思った。五条は最強だから、未来でも生きているのに。
「もういいよ」
私は五条の肩を押した。五条がベッドに腰掛けて私の隣に並ぶのは珍しいことだった。少なくとも現在――思春期の五条はしない。
五条は頭にクエスチョンマークを浮かべるように、形のいい眉を上げてみせた。
「私、未来で死んでるんでしょ? これ以上は私がしんどくなるから、やめてほしい」
沈黙に耐えながら、そういえばこの時代の五条はどこにいるのだろうと思った。未来の五条は過去の自分がいない時間を狙って私に会いに来たのだろうか。それではまるで、今の時代から五条が私のことを好きみたいだ。
「死んでないよ?」
五条は平然と返す。その白々しさに苛立った。
「嘘はいいから」
「嘘じゃない。本当に、死んでないよ」
五条の瞳と目が合った。何でも見透かせる能力を持っているのは五条の方なのに、今では私の方がそれを持っているみたいだった。五条の言っていることは嘘ではないと、五条の何かが私に教え込んでいた。
「じゃあ、何で過去の私を見て喜ぶの。未来に生きてないからじゃないの」
「そりゃあ好きだからでしょ」
思春期の男女が言うにはかなり難しい台詞を、未来の五条は言ってのけた。まるで術式を説明するみたいに、広げた手のひらを宙に差し伸べる。
「大好きな子のちっちゃい姿だよ? 興奮しないわけないじゃん。あ、興奮っていうのはエキサイティングの方で、未成年に欲情してるわけじゃないから」
五条のわざとらしい言い分を私は呆然と聞いていた。全ては取り越し苦労だったのだ。私がいなくなるから惜しまれているわけではなかった。五条が、私を好きすぎるだけで。
「紛らわしいことしないで!」
私が照れを隠すように怒ると、五条は笑って私の肩を抱いた。欲情していないと言うくせに距離が近い気がするのも全部大人だからなのだろうか。
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