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「暑いな」
私を青い監獄から連れ出した張本人は、外に出るなり文句を垂れた。この暑い中出かけたお目当ては私と二人で散歩をすることらしい。空調の効いた室内では駄目なのか、と問えばそれではムードがないと返ってくる。灼熱の中歩くのも十分ムードがないと思うが、カイザーと二人きりは悪くない。
「カイザーは金髪だからいいじゃん。黒髪は直射日光集中砲火なんです」
この分ならば日傘を持ってくればよかった、と思った。黒髪にとって日差しは強烈だ。カイザーは斜め下の私の頭を見やると、手のひらを私の頭の上に載せた。熱せられた髪の毛に触れ、「おお」と感嘆の声を漏らしている。
「本当だな。余興としてドイツ棟に触らせてやりたいくらいだ」
この場合カイザーはチームメンバーを楽しませてやろうという親切心があるのではなく、ただ単に私を面白がっているだけだろう。自分の飼い犬がみんなに気に入られているのを見て、他に誇りたいだけだ。
「カイザーって私を他の男に触らせたくないとかないわけ?」
嫉妬深そうなくせに、とは言わなかった。カイザーは訝しむような視線を向ける。
「頭だろう。それともお前は頭で感じるのか」
「そうじゃないけどさ」
欧米人にとってキスが挨拶ならば、頭に触れることや手を繋ぐことは何でもないのかもしれない。カイザーがどこまでしたら怒るのかは興味深いが、試してみる度胸は今のところない。
「日本では頭を撫でるのも性的なのか? ヘンタイの国だな」
カイザーは両手を広げて乾いた笑いをこぼした。それから日本の街路樹を眺め、ふと私に視線を戻す。
「よし、俺の頭に触ってみろ」
それは一体どういう意味での発言なのか。とりあえず私はカイザーに心を許されているらしい。二人で出掛けて、おまけにセックスもする仲なのだから今更かもしれないけれど、欧米人のカイザーに告白の文化はない。私はカイザーと付き合っているのかいないのかわからないまま、カイザーの隣に置かれている。日本では恋人同士でしか頭には触れないんだよ、と吹き込んだら、カイザーは嘘だと見抜いた上でも触るだろうか。
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