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※本誌バレ

「これ書いてよ」

 南雲さんに差し出されたのは、紛うことなく婚姻届だった。軽い調子で結婚を求める。なんとも南雲さんのやりそうなことだ。その好きだという言葉が本物かどうかもわからない中で――そもそも南雲さんという何もかもが謎に包まれている人物と、結婚するはずがない。

 とはいえ、これはあくまで遊びのはずだった。南雲さんが私に本名を教えるはずがないだろうし、この婚姻届を提出してもきっと受理されない。記名するふりをしておけば大人しくなるだろうという魂胆のもと、私は新婦の欄に署名した。南雲さんは「ありがと」と言って婚姻届を回収していった。それが数ヶ月前のことだ。

 現在、南雲さんは全国に指名手配されている。見慣れた顔の下に、私が聞かされていた通りの名前がある。南雲さんの名は、通り名ではなかったのだ。つまり、あの婚姻届は本当に法的な力を持っていることになる。

「私って殺し屋の妻になってるの……!?」

 焦る私の横で、南雲さんがVサインをして笑っている。

「おまけに指名手配犯の妻だよ〜」

 こうなることがわかっていたら書かなかった、だろうか。南雲さんは全国指名手配されようが私に構い続けるだろうし、私はそのうち南雲さんの策に乗せられるだろう。こうなるべくしてなったと言える帰結だった。南雲さんはどこまで見抜いていたのだろう。私達の向かいで、シンくんがひきつった笑いを浮かべていた。