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 事の始まりは、教室を出た時大勢の女子に囲まれたことだった。先の戦いで活躍した、また顔立ちも整っている轟くんや爆豪にそういう追っかけがつくのがわかる。だがなぜ、私なのだろう。

「苗字さん今日放課後暇ですか!?」
「え、まあ暇だけど」
「じゃあお茶! スタバ席確保してきて!」
「私呼んでくる!」

 あれよこれよと背中を押され、気付いたら私は雄英近くのスターバックスに座らされていた。そして何故か、目の前には轟くんがいる。

「ほうじ茶ラテって美味しいんだな」

 轟くんがそう口にすると、先程の追っかけらしい女子達が「ラテに合うものを!」と買い求めた。どうやら、彼女達は私ではなく轟くんの追っかけらしい。そして私につきまとっている理由も、なんとなく理解した。

「轟くん、そういうのはよくないんじゃないかな」

 私はフラペチーノをテーブルに置き、轟くんと向き合う。

「何がだ」
「彼女達は……轟くんが好きなわけじゃん。それなのに、私とくっつけさせるのに協力させるのは残酷だと思う」

 同じことを轟くんも思っていたのか、轟くんは頭を掻いて考え込むようにした。彼なりに罪悪感もあったのだろう。滲む表情は、明るいものではない。

「俺はただ好きな人いますかって聞かれて、答えたらこういう風になってて」

 大体は私の予想通りだ。轟くんはきまり悪そうに視線を下げている。

「苗字と付き合えるなら、まあいいかって思った」
「じゃあ、もうそういうのしなくていいって言って?」

 今も彼女達は私達を陰から見守っている。ご苦労なことだ。轟くんは彼女達を手招くと、無粋に、けれど誠実な言葉を並べた。

「もうみんなに協力してもらう必要はねぇ。悪かった。今までありがとう」

 これで私も轟くんも、不要な罪悪感に見舞われずに済む。私が一息つこうとした時、不意に高い声がした。

「付き合えたんですか?」

 まさかの解釈。いや、好きと言っていた人がもういいと言ったのだからそうなるのは自然だろうか。勿論断るのだろうと思って見ていれば、轟くんは「そうだ」と肯定した。

「おめでとうございます!」

 スターバックスの店員の視線も気にせず、追っかけ達は盛り上がる。私は責めるように轟くんを見るが、轟くんは「わるい」と口を動かしただけだった。

「この方が、早いと思って」

 それが本人の知らぬところでモテてしまう轟くんの苦労から出た言葉なら許せる。けれど、追いかけられている状況にあやかって外堀を埋められた気もしなくはない。特にそのほくほくした顔を見ていれば。

「付き合ってるふりしかしないからね?」

 私は責めるように言ったのだけれど、優しく「ありがとう」と返されては毒気を抜かれた。