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 部活を終えて電車に乗り込むと、部員達が次々下車していき私と佐久早だけになった。お互いにお喋りな方ではないので、二駅分の沈黙が訪れる。だがそれを気まずいとは思わなくなっていた。電車のドアが閉まった後、待っていたように佐久早が話し出す。

「で、何があったんだよ」
「へ?」

 今日も何も話さないものかと思いきや、佐久早には話があったようだ。しかも、私のことで。戸惑う私に佐久早はさらに追い打ちをかけた。

「今日ずっと様子おかしかっただろ」

 図星の私は下を向く。態度に出さないようにしていたが、佐久早にはお見通しだったのだ。その理由は恥ずかしくて言えたものではなかった。高校生にもなって告白されただけで目に見えるほど動揺するなど、普段モテないと言っているようなものだ。だが佐久早が引き下がる気配はない。私は仕方なく佐久早にだけ聞こえる声量で言った。

「……同じクラスの人に、告白された」

 佐久早とはただの部活仲間だ。だからこそ、恋愛の話を持ち込んで気まずくなるのが嫌だった。佐久早は私になど興味ないはずだから、適当に流されて明日にはなかったことになっている。そのはずが、佐久早は私の恋愛に干渉する気があるようだった。

「俺が好きだって言って断れ」
「え、佐久早を?」

 私は咄嗟に顔を上げて佐久早を見る。佐久早は至って真剣な表情で私を見下ろしていた。他人の恋愛に関わるなどごめんだと言いそうな佐久早が、自分を巻き込もうとするのが意外だった。

「佐久早に迷惑かかっちゃうよ」
「同じクラスだと変に波風立ったら困るだろ。好きな人がいるとか言うのがちょうどいい」
「そもそも私断るとも言ってないんだけど」
「どうせ断るんだろ。そいつと俺、どっちが好きなんだよ」

 告白で求められているのは恋愛の好きであって、佐久早への好きは友情の好きであるとわかっている。それでも私は告白してきたクラスメイトより佐久早の方が私の中で上だと、認めざるを得なかった。

「さ、佐久早だけど……」
「ならいい」

 告白を断る断らないの話だったはずなのに、気付けば佐久早をどう思っているかの確認になっていた。ただの部活仲間に告白してきた人より好きだと言われて満足している佐久早もどうかしている。

「今のでわかっただろ。お前は俺が好きなんだよ。だからそう言って断れ」

 冷静に考えれば好きの種類が違うとわかるはずなのに、この時の私は佐久早の勢いに押されて頷いていた。佐久早に言い訳を用意され、後日クラスメイトに佐久早から言われた通りの答えを告げる。すると不思議なもので、本当に佐久早が好きかのような感覚に陥るのだった。男らしい佐久早の言葉に惹かれていたというのもある。

「佐久早を好きだからって言い訳、もう使わないから」

 後日、電車で佐久早に言うと、この言葉をどう受け取ったのか佐久早は冷静に返した。

「じゃあ今度からは、彼氏がいるって断れ」

 その彼氏が誰かはわかっているはずなのに確かめるのが怖くて、今度こそ本当に自分の中の疑惑を確信に変えてしまう気がして、私は聞けずじまいだった。佐久早が私と付き合っているからという理由で告白を断ったと聞いたのはその数週間後のことだ。