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「落ちてる」
私の家に上がり込んで数分。佐久早くんは私に体を寄せるでもなく、床に落ちていた髪の毛を拾い上げた。長い黒髪はどう見ても私のものだ。私がゴミ箱を差し出すと、佐久早くんは髪の毛をそこに捨てた。
「佐久早くんって髪の毛落ちてるのにうるさいから浮気したらすぐバレそう」
ここでジェルのついた短髪など落ちていたら、佐久早くんはすぐに気付くだろう。それが私の髪ではないことにもまた気付くだろう。私は自宅に相手を招いての浮気を未然に防がれているのだ。佐久早くんは不快そうな表情を浮かべた。
「俺はただ汚い床に耐えられないだけだ」
その表情は佐久早くんの言う「汚い床」に対してのものか、浮気を疑っていると思われていることにかわからない。
佐久早くんは私に近付くと、ぎこちなく私を抱きしめた。
「疑ってない」
ただ潔癖なだけで、相手を疑っていると誤解されがちな佐久早くん。その誤解の解き方も、なんとも不慣れなものであった。浮気してないなんてわかってるよ、と日常会話のように言える人ではないのだ。この不器用さを見ても、佐久早くんが浮気をする人ではないことはわかる。
「私も佐久早くんのこと疑ってないよ」
「ん」
私達は一度キスをした。私は多分、浮気したらすぐにバレる。佐久早くんは浮気をできるような性分ではない。私達の未来は、結構安泰かもしれない。
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