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「今度新作が上映するって! 一緒に観に行こうよ」
彼女である名前がスマホを手に迫ってきたのはある晩のことだ。寝間着から見えそうになっている谷間には見ないふりをして、凛は自分の手元に視線を落とす。
「行かねえ」
名前のスマホには、いかにも凛の好みそうな派手なホラー映画のジャケットが表示されている。ついこの間も、家で似たような映画を見たばかりだ。名前は眉を下げた。
「何で? 凛って家では見るけど映画館には行かないよね」
それはお前が怖がる姿を見るためだ、と言うには少々プライドが邪魔をする。要するに、凛は名前に怖い映画を見せて怯えた名前とイチャつきたいのである。いくら暗がりとはいえ、映画館で派手に触れ合うことはできない。そういうわけで、凛は名前と一緒に映画を観るならば家と決めているのだ。
「暗くて狭い所が怖いの?」
名前は凛を煽っているのか。というか、ホラー以外のものならデートとして行ったことがあるだろうに、そんなことを言う。凛は用意していた答えを口にした。
「お前がピーピーうるさいからだろうが。恋愛ものなら行ってやるよ」
名前がホラーを見ている間泣き叫ぶ。そのせいで映画館には行けないのだと凛は主張している。半分本当で、半分嘘だ。本当は家で名前に抱き着かれながらホラーを見るのが一番だけれど、たまには映画館にデートをしに行くのもいい。
「観たかったんだろ」
最近流行りの少女漫画の実写映画のスケジュールを出せば、名前の目が輝いた。普段凛に付き合わせているのだから、たまには名前に付き合ってやってもいいか。映画は多分つまらないだろうけれど、少女漫画チックな映画を観て目を輝かせている名前のことはまあ、好きだったりする。
「本当!?」
名前は凛に抱き着いた。これも役得か。
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