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 待ちに待ったデートだからと、集合時間より早く着きすぎたのがいけなかった。幸郎が指定した場所は繁華街で、私のような一般的女子にも声をかける輩がいる。先程からメールアドレスの交換を迫る茶髪の男を見て、どうしたものかと途方に暮れた。こういう時強く出られないのが私なのだ。

「メアド交換なら俺とします?」

 その時、私の背後から大きな影が現れた。携帯を手に、角の立たない言い方で撃退するのはなんとも幸郎らしいと思う。ナンパ男はたじろいでどこかへ行った。

「ありがとう」
「いいえ」

 幸郎が携帯をポケットにしまう。その代わりに私の手を繋いで、デートが始まった。

 それから数日経ったある日のことだ。普段あまり携帯を見ない幸郎が、しきりに携帯を開いて文字を打っている。私はそうでないと察しつつも「相手誰?」と浮気を疑うようなことを言ってみせた。事実は浮気より理解に苦しむものだった。

「この間名前ちゃんをナンパしてきた人」

 いつの間に連絡先を交換していたのか。あれは追い払う文句ではなかったのか。私が絶句していると、幸郎は携帯から顔を上げて私へ笑いかけた。

「趣味が同じなんだから気が合うでしょ〜」

 自分で言うのは恥ずかしいが、私を好きな人同士ということだろう(ナンパ男が本気で私を好きだとは思わないが)。幸郎がこうも余裕でいることに、私は少しの不満を感じた。

「嫉妬とかしないの?」
「別に? だって名前ちゃん俺のこと大好きなんだもん」

 ここで「俺が名前ちゃんを大好きなんだもん」と言わないのが幸郎らしい。幸郎の言う通りだ。私は幸郎が大好きで、幸郎が他の男を警戒なんかしなくても浮気しない。すべてお見通しなのが悔しくなって、私は机に頬杖をついた。