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「俺、苗字さんのこと好きみたい」
葉流火がそう言い出した時、俺はついにこの時が来たかと思った。野球しか頭にない無骨な男でも立派な中学生だ。つまりは思春期なわけで、同級生に恋もする。俺は葉流火の肩に手を乗せた。
「苗字さんだな? わかった、任せろ」
「ありがとう」
などと言ったが、俺は葉流火の恋に協力するわけではない。むしろ逆だ。野球に集中させるために、恋愛が成就する可能性を削いでいく。
葉流火が自主練をしている時、俺は苗字に近付いた。
「苗字さん、付き合ってくれないか? もちろん交際の意味で」
好きとは言わなかった。好きではないからだ。俺の目的は葉流火に恋愛をさせないことで、俺が交際を楽しむことではない。
苗字は目を丸くした後、恥ずかしがるように手を口元に持ってきた。
「え、要くんのことを知らないから、その……」
ごめんなさい。つまり俺は、フラれたということか? 葉流火のために告白していることも忘れ、俺はショックを受ける。そうか、苗字という一般的女子にとって俺は「ナシ」なのか。
「わかった。でもすぐその気にさせる」
俺は立ち直って、苗字へのアピールを始めた。苗字へ挨拶をし、好きだと囁き、時には距離を詰めた。葉流火は俺の行動を自分のためだと思っているらしかった。とことん鈍い奴だ。廊下の角を曲がろうとしたある時、向かいから声が聞こえた。
「私、要くんにストーカーされてるみたいで、怖くて……」
苗字だ、とすぐにわかった。そしてその反対側にいるのは葉流火だった。やられた、と思った。俺の行動は苗字と葉流火をくっつけることになり、結果として俺は二人のキューピッドだ。いくら葉流火でも怒るかもしれない。そう思って耳を澄ませると、呑気な声が響いてきた。
「圭は悪いことはしないと思う」
葉流火はどこまでも純粋だった。葉流火の邪魔をしている俺を信じているのだ。俺などいなくても葉流火の恋愛は成就しないのではないか。そう思ったが、プロになった後特定の女を作らずに遊び呆けているのでは困る。今が恋を教えるチャンスなのだろうか。葉流火は恋愛などすべきではない、という思いが友情なのか嫉妬なのかわからない時点で、俺も恋愛初心者である。
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