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「おい、日本人は床で寝るというのは本当か」

 急に食堂で話しかけてきたと思えば、カイザーは突拍子もないことを言った。欧米圏の人にとって、床に布団を敷いて眠ることは珍しいことなのだろう。だけど私達日本人にとっては普通のことだし、私だってしている。

「そうだけど」
「お前もそうなのか?」

 私は今、ブルーロックに泊まり込みで職員をしている。近代的なこの施設において床に敷く布団はあまり似合っていないが、長年の慣れには敵わない。

「そうだよ?」

 私が答えると、彼は深刻そうな顔をしてスマホを何度かタップした。

「そんな寝方をしてパフォーマンスに影響が出たらどうする。マットレスを買ってやったから使え」
「パフォーマンスって……」

 私がしているのは事務仕事程度のことで、体を使う選手達のようなことはしていない。それでもカイザーにとっては、自分の世話を焼く人間のコンディションは整えておきたいのだろう。

「それってカイザーの給料で買ってるんでしょ? 自分のお金は自分のために使って」

 カイザーのことだから一流品を選んだに違いない。とてもではないが、そんなものは受け取れない。大体、私はあの煎餅布団に満足しているのだ。何故カイザーが私の布団の薄さについて把握しているのかはわからない、というかわかりたくないが。

「俺の金は俺が使えだと? ならいい方法があるな」

 カイザーは意地の悪い笑みを見せた。その時点でなんとなく嫌な予感はしていたのだが、まさか男女の意味合いで的中するとは思わなかった。

「俺も一緒に使う」

 カイザーがシングルマットレスを買ったのか、ダブルを買ったのかはわからない。ただカイザーは私と一緒に眠る気なのだ。選手と職員という間柄を超えて。

「そんなの許されるわけないでしょ」
「お前が言ったんだろう。自分の金は自分で使えと」
「そういう意味じゃない!」


 私が返す言葉も全部わかっていてマットレスを買ったなら相当策士だ。最初は親切というか、私に安眠してほしいという純粋な願いだったのだろう。なんだかカイザーが私に向ける気持ちを考えることがむず痒くなってくる。相手を真摯に想うカイザーより、不敵に笑って相手を自分のペースに巻き込んでいくカイザーの方がまだ彼らしい。そう考えると私はカイザーと純愛を育むより同衾することになり、どこにも逃げ場はないことを知るのだった。それもまたカイザーに目をつけられた運命だろうか。