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「僕が死んだらさ、すっごく美化すると思うから。僕の嫌な所沢山知っておいてよ」

 そう言って五条さんは私を強引に抱き寄せた。五条さんはそれを嫌なこととしてやっているのだろうけれど、私はむしろ嬉しかった。五条さんに抱き寄せられることが。五条さんの中で、たとえ私のためだろうが本格的に危害を加えるようなことをできないことが。私は五条さんに身を任せ、甘えるように頭をもたれる。五条さんは嫌われなければいけないのに、私を突き放すようなことをしなかった。

「僕の嫌なとこ十個!」

 突然五条さんは叫ぶ。その様子はまるで五条悟の良い所で山手線ゲームをしようと言い出した時と同じ明るさで、この人が死をどのように考えているのかわからなくなってしまう。最強だから、死が怖くないのか。最強でも、私と離別することは嫌ではないのか。

「思いつかないよ……」

 私の声は震えていた。五条さんは私の腹に手を回し、顔を近付いてそっと囁いた。

「僕が死んだ後でも、名前はずっと生きていく。そう考えたら、未来は明るいよ」

「最強」がいなくなった後でも世界は回るのだということを、私達は証明しなくてはいけない。五条さんは世界のために自らを犠牲にする。私の気持ちでさえも犠牲にする。私ならば耐えられるだろうと信頼されているのなら、私はそれに応えないといけない。だって、私は最強の五条悟の彼女なのだから。涙を拭いて、これからどう生きていくかを考えた。