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「ありがとうございました」

 そう言って赤葦が私に返した単行本には、備え付けの紐が途中で挟まれている。私は本の返却を急かした覚えはない。

「毎回最後まで読んでから返していいんだよ?」

 それでも私が受け取らないと赤葦は意地になるので、私は本を受け取った。

 赤葦と私が小説本の貸し借りをするようになったのは少し前からのことだ。貸し借りと言っても殆ど一方的に赤葦が借りているばかりで、先輩相手に気を遣わないのかと思わなくもない(まあ、それが赤葦のいい所でもあると思う)。赤葦が返す本には、毎回栞が挟んだままになっている。初めや終わりではなく、本の半ばに。貸している身としては、きちんと楽しんでいてくれるか不安になる。それにしては赤葦は内容をよく理解しているものだ。

「実は栞を挟んだページの先頭の文字をつなぐとラブレターになってるんですよ」

「ラブレター」という古風な単語を、久しぶりに聞いた気がする。

「何でそんなめんどくさいことするの!?」

 私が思わず尋ねると、赤葦は気落ちする様子もなく答えた。

「ロマンがあるかと思って」

 文学少年の赤葦らしい答えだ。だがいくら赤葦にロマンがあろうと、私に同じだけのロマンがあるとは限らない。それは赤葦もわかっているはずである。

「気付くと思った?」

 毎回最後まで読めと怒りながら受け取っているのだから、赤葦のラブレターが一方的なことに彼自身も気付いているはずだ。

「俺って結構こういうの好きなんです」

 赤葦は相好を崩した。それから、私に視線を合わせた。

「あと、苗字さんも」

 ついでに告白するな、と言いたくなるが、告白の場においてツッコミなどロマンがないと一蹴されてしまうのだろう。ここまで全部赤葦の計算かもしれない。平気な顔でラブレターだの好きだの言える高校二年生男子が、恐ろしくてたまらない。