▼ ▲ ▼

「この間、付き合いでキャバクラに行ってきた」

 普段ソファで堂々と寛いでいる聖臣は、今日に限って申し訳なさそうに項垂れている。その様子は部活で記念日を共に過ごせなかった学生時代を思い起こさせた。プロ選手になってある程度の融通は利く今、逆に大人の魔の手に乗せられている。

「離婚はしないよ」

 私は夕食のスープを味見しながら言った。視界の片隅で、聖臣が反射的に顔を上げるのがわかる。

「ありがと……」
「これから叩かれるだろうけど、まあ相談に乗ってあげるから」

 有名人の悪名はすぐに広まる。いくら内容がキャバクラ通いだろうと、私は妻として聖臣の味方でいてあげたい。その思いで言ったのだが、聖臣は困惑していた。

「何か勘違いしてないか」
「スキャンダルが出るんでしょ?」

 私はその時初めて聖臣の方を振り返った。聖臣は申し訳なさそうな顔をしながらも、言いたいことがあるように当惑していた。葛藤するかのような時間が数秒流れる。

「いや、記者には撮られてない」
「じゃあ何で言ったの?」

 私は聖臣の行動を全て把握はしていない。キャバクラへ行ったことも、黙っていればわからなかったはずだ。記事になるならまだしも、ただ行っただけで報告する義務はない。私だったらしない。と思うのは、私が聖臣より程度の低い人間だからだろうか。

「お前に後ろめたいことは隠しておきたくないって気持ちくらいわかれよな……」

 相変わらずきまりが悪そうなのに、どこか上から目線だ。その様子がおかしくて、私は笑い出した。

「許してくれるのか?」
「付き合いならね」
「無理やり連れて行かれた」

 もう聖臣の性格など熟知しているのだから、今更疑うはずもない。私はスープをよそって聖臣に押し付けた。

「配膳。やって」

 普段は私がしている家事を聖臣に押し付けると、「お前やっぱり怒ってるだろ」と言われた。