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乙骨くんとは、こんなに大胆な子だっただろうか。私は壁際に追いやられながら、普段より高い位置にある乙骨くんの顔を見た。今の彼は、五条先生の顔をしている。最終決戦を控えた今、私達は入れ替わりの修行をしているのだ。
「前に名前さん、僕のことを優しいって褒めてくれたじゃないですか。それに五条先生の顔が合わさった今なら、いけるのかなって」
「何を」とは考えないようにする。五条先生の体を借りた今、仮に付き合っていない私達が恋人らしいことをしてもそれは誰としているのかわからなくなってしまう。
言われてみれば、性格を褒めたことはあった。だからと言って乙骨くんの容姿が劣っているとは思わないし、乙骨くんの魅力はそこだけではない。自分の容姿をマイナス勘定するのがなんとも謙虚な乙骨くんらしい。
「私は乙骨くんの顔も好きだよ?」
前から乙骨くんが私に好意を寄せてくれていることは知っていた。簡単には離れて行かないだろうと思っていたから、私は乙骨くんの気持ちにあぐらをかいていた。少しずつ言葉を小出しにする。優しいと言ったのもその一つだ。顔が好き、なんて言ったらもうほぼ告白だけれど、それは仕方ないと思うことにする。入れ替わり修行の最中でも、タイミングがくれば人は付き合うのだ。
「つまり今僕の体に五条先生が入ってるからそっちに気が向くってこと……?」
ここまで言えばわかるだろうという予測も、乙骨くんには通用しない。彼のネガティブさは私の想像をはるかに超えた。どうしてそうなってしまうのだろう。
「あのね、私は五条先生みたいな人と付き合いたいとは思わない」
遠くで五条先生が「僕をけなす必要ある?」と唇を突き出していた。その顔をよく見たくなるのを我慢して、乙骨くんに向き合う。
「僕だったら、どうなんですか?」
言わせようとしている。私はそう感じ取った。乙骨くんはネガティブでも鈍感でも何でもなく、すべて分かった上で私に言わせたいだけなのかもしれない。それか本当に、何も分かっていないのかもしれない。乙骨くんを恐ろしいと思うのは、これで何度目だろうか。
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