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「制服、リボンがよかったなぁ。雄英は女子もネクタイなんだもん」

 そう言う三奈ちゃんに、葉隠ちゃんが「わかる」と同意した。宙に浮かんでいるグローブが、今は人差し指で三奈ちゃんの方を指している。

「私はどっちでもええけどなぁ……」

 通常女子の制服はリボンの高校が多いだろう。ネクタイに不満を持つのもわかるが、それでも雄英の制服を着られることに少なからず誇りのようなものを感じているはずだ。四月から着ている制服について、衣替えの秋になって言い出したのがその証拠だろう。三奈ちゃんだって制服を改造するようなことはしていない。

「でもまあいいじゃん。ネクタイに慣れておけば、将来旦那さんのネクタイとか結べそうで」

 私が言うと、「名前ちゃんロマンチック!」と葉隠ちゃんが声を上げた。いかにも葉隠ちゃんや三奈ちゃんが好みそうな話題である。話はいつの間にかどんな人と結婚したいかに移り変わり、私はそれを聞いてばかりいた。

「なぁ、ちょっといいか」

 轟くんに呼び出されたのは学校から寮に戻った頃のことだ。一瞬告白かと身構えたけれど、ランドリーの前で告白というのはなんとも味気ない。洗濯機がずらりと並ぶ前で、轟くんは口を開いた。

「さっき、芦戸達と話してただろ」
「ああ……」

 制服の話だろうと直感する。なんとなくだが、轟くんがファッションの話をするのは意外だ。雄英生としての自覚が足りない、と説教を垂れるほど他人に興味がある方でもないだろう。何かと思っていれば、轟くんは言いづらそうに腕を後頭部にやった。

「あれ、結婚相手は普通のサラリーマンがいいってことなのか」
「え?」
「ネクタイ締めるのって、サラリーマンだろ」

 そこで私は自分の発言を思い出した。旦那さんにネクタイを締めてあげられる。私の発言にそんな深い意図はない。

「なんとなく言っただけで、今から結婚相手なんて考えてないよ」

 そう言うと、轟くんは口元を緩めて「よかった」と言った。

「プロヒーローでも良さそうだな」

 それだけ言い残して、轟くんは談話室へ去ってしまう。私は轟くんの言ったことの意味について考えていた。プロヒーロー、それはイコール轟くんのことだと考えていいだろう。無自覚なのか意図してか、彼は告白に近いことをした。

 私は轟くんを侮っていた。轟くんは色気も何もないランドリーで、告白ができる人なのだ。

 轟くんのことを新しく知ってしまったと浮ついている時点で、私は轟くんのことを相当意識している。