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 体が入れ替わってしまった。その相手が異性ではなくて、本当によかったと思う。気心知れた古森ならある程度許せるし、排泄や入浴で最悪の事態にはならない。

「佐久早のフリするってしかめっ面しとけばいいんだろ? 来る女子みんなに塩対応してさ」

 古森は早くもこの状態に慣れようとしている。先程から俺の顔で明るい表情をしているのがなんとも奇妙だ。俺は腕を組み、古森ならしないであろう気難しい表情を作った。

「苗字には突き放さず嬉しい顔は見せない程度に優しく当たれ」

「それもう好きだろ! 告白しろって!」と古森が笑っている。俺の気持ちを決めつけて、俺の体で告白でもされたら面倒だ。でも古森のことだから、俺が本当に怒るようなことはしないのだろう。

 ――と思っていたのに。

「ちょーっと俺苗字さんのとこ行って抱きしめてくるよ。そしたら全部解決だって」
「おい」

 俺と苗字は、友達以上恋人未満(と、俺は思っている)の関係性を保っている。それを壊すのは然るべきタイミングでと考えている。古森の遊びのような感覚で壊していい関係性ではないのだ。陰険なオーラを漂わせる俺に、古森は本質を突く。

「聖臣、苗字さんと自分から距離を縮めるのが嫌なの? それとも、俺が苗字さんを抱きしめるのが嫌なの?」

 どうして俺が考えないようにしていたことを突き出してくるのだろう。古森がいれば、俺と苗字はとっくに付き合っていたのかもしれない。普段のようにもどかしい毎日を送るのも楽しいけれど、苗字に何と言うか、はいつか考えなければいけない問題なのだ。

「元の体に戻ったら、俺が苗字に話をする」

 覚悟を決めた俺を、随分楽しそうな顔をした俺が覗き込む。

「そんで抱きしめる?」
「そこまではしない」
「ちぇっ」

  つまらなくていい。これが俺の恋愛なのだ。と、開き直ってみる。