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「寒いか?」

 と上着を貸してくれた轟くんは、とても優しいと思う。本来ヒーローを目指す身として少しの寒さくらい耐えられなければいけないのだけど、私は彼の優しさに甘えることにする。ただ、一つ気になるのがその優しさの表現の仕方だ。彼はいつも「暑い」と言われれば氷結を発し、「寒い」と言われれば体温を上げる。その方が簡単なのだろう。上着をわざわざあげるよりも。

「何で私には体温調整じゃないの?」

 思い切って聞いてみると、轟くんは視線を私へ向けた後もう一度前へ向けた。そこには庭の芝生があるのみだ。至って平和な景色の前で、轟くんはしっとりとした声色を出す。

「ドキドキするからダメだ」

 多分、轟くんはこの発言をするのにそれなりに勇気が必要だったのではないだろうか。いまだに視線を合わせない。それでも自分の体温を上げて私をくっつかせるよりは「ドキドキ」しないということなのだろう。轟くんがついさっきまで着ていた上着を着ている私は結構、ドキドキしているのだけど。

「夏はどうするの?」

 夏も轟くんが私に慈悲をくれる前提で私は尋ねた。轟くんは覚悟を決めた青年のような瞳をして、まだ前を見ていた。

「その時までには慣れておく」

 何に慣れておくの、と聞くほど鈍くはない。轟くんはドキドキすると言った時点で承知していたのだ。私に対する好意が、私に知られてしまうことを。

「よろしくな」

 そう言って轟くんは微笑んだ。告白されるよりも、これからアプローチすると宣言するよりも潔白で爽やかだった。実に彼らしいと、私は思う