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 春休みの最中に影山君からメッセージが来たかと思えば、学校に呼び出された。ちょうど午前に部活があったので私は残るだけだが、影山君はこれから部活なのではないだろうか。黒いジャージを着て現れた影山君は、私を見るなり眉根を寄せて言った。

「もし同じクラスになれたら付き合ってください」

 言葉が出てこないとはこのことを言うのだろう。影山君が私を好いているのも驚きだし、さらには付き合うかどうかという大事なことをクラス替えに任せてしまうのも私にはない感覚だ。部活で勝てたら、などはよく聞くが、クラス替えに本人の努力は関係ない。ただの運と教師陣の思惑に賭けていいのだろうか。

「そ、そんなんでいいの?」
「はい、いいんです」

 影山君は真剣な表情をしている。どうせ付き合うことになるかどうかはわからないのだし、ここまで本気ならばと私は受け入れることにした。全ては、クラス替えに委ねられている。

 発表当日、私は緊張した面持ちでクラスのグループメッセージを見た。学校まで直接見に行く勇気はなかった。もし影山君もいたらどうすればいいのかわからなかったのだ。私の恋の命運をのせて共有された画像ファイルをタップする。真っ先に私の名前を見つけ、クラスや担任をチェックするより先にクラスメイトを上から下まで見た。影山君は、いなかった。

 影山君が本気だというのは本当だったらしい。クラスが離れた今、宣言通り私に近付くことはなく、まるであの告白すらなかったかのように過ごしている。一方私は影山君のことが気になって仕方なかった。ただのクラスメイトだと思っていた人物が私のことを好きだと知らされたのだ。気にするなという方が不可能な話だろう。私のことを好きなはずの影山君が平然としていて、影山君を何とも思っていないはずの私が気を焼いているのはおかしく思えた。気付けば、影山君のことばかり考えている。こんなことになるなら同じクラスになったらという影山君の提案を跳ね除けてその場で付き合えばよかった。告白をされてからというものの、影山君はますます魅力的に思えた。

「苗字さん、何スか」

 今日だって、影山君を二人きりで呼び出したというのに顔色すら変えない。本当に私のことが好きだったのかと聞きたくなる。これでもう飽きたなど言われたら、私はたまったものではない。

「春休みの話、やっぱり付き合おう。……影山君が好きだって言ったんだから、普通影山君から言ってよね」

 需要のないツンデレのようなものを披露しながら、私は影山君に交際を申し出た。影山君は目を瞬いた後「はい」と言った。本当にわかっているのかと聞きたくなる。部活ではないのだから、ちゃんと私を見てほしい。その意思を込めて、私は影山君との距離を詰めた。