▼ ▲ ▼

 苗字が食事をしているところを見ると、俺の分を分けてやりたくなる。苗字が俺の弁当を物欲しそうに見ているわけではないのだけど、食べて喜んでいる顔をもっと見たくてたまらなくなるのだ。このむず痒い感情の正体を、俺は突き止めることにした。

「何で俺に梅干しくれてたんだ」

 尋ねたのは、久々に帰省した姉である。彼女は昔からいつも俺におかずをくれていた。特に好物の梅干しなどは、一人一つにも関わらず俺に分け与えていた。姉は呆れたと言わんばかりに眉を下げる。

「聖臣が好きだからに決まってるでしょ」

 姉の恩着せがましさはおいておいて、俺は密かに納得する。そうか、俺が苗字に食べ物をあげたいと思っていたのは苗字が好きだからなのか。

 理解してしまえばそれはすとんと腑に落ちた。どうして今まで気付かなかったのかというくらい、俺に馴染んでいる。その感情は昔から俺にあったものなのだ。

「俺はお前が好きらしい」

 付き合うでも、付き合わないでもいい。それを決めるのは俺ではないけれど、俺はどうしても付き合いたいわけではなかった。ただ、漸く気付いた俺の気持ちを苗字に言いたくなっただけで。

「何でそう思ったの?」

 苗字は少し不思議そうにしているが、驚いた様子はない。また聖臣が何か言い出した、という反応だ。姉といい、俺の周りにはこういう女が多い気がする。

「お前がものを食べるからだ」

 俺が言うと、「生きてるだけで好きってこと?」と苗字は眉を吊り上げた。多分そこまで好きではないけれど、誤解された方がよさそうなので黙っておく。前言撤回、俺は苗字とどうにか付き合いたいみたいだ。俺は自分の気持ちに気付くのがいつだって遅い。