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「選挙ってどうすればいいんですか?」
隣の席の影山くんが尋ねてきたのはホームルームが終わってからのことだった。ホームルームではこれから生徒会の投票があると知らされただけで、そのやり方については触れられていない。彼が私に聞くのは公欠が多く聞き漏らしている情報があるからだろうけれど、多分説明を聞いていても同じ質問をしたのだろう。中学ではどうしていたのだろう、と思いながら私はシャーペンを回す。
「生徒会に相応しいと思う人の名前を書けばいいんだよ。品行方正とか」
影山くんは、口を噤んでしまった。多分だけれど、理解していないのだろう。相応しい、品行方正。彼がそういう言葉を理解できるような頭ではないことは、この隣人生活で理解した。
「好きな人の名前を書いたら?」
極限まで噛み砕いて私が言うと、影山くんは「そうします」と言ってペンを握った。たかが高校の生徒会といえど選挙は選挙だ。誰に入れればいいとか、押し付けのようなことは言えない。私はいいことをしたような気になりながら投票用紙を前の席へ回した。クラス全員分の投票用紙を確認した担任が、視線はそのままに大きな声を上げる。
「影山ー、これじゃ無効票だぞ」
「っス」
影山くんは立ち上がり、投票用紙を取りに戻った。一体何と書いたのだろう。彼のことだから、「好きな人」とそのまま書いたことも考えられる。投票用紙を持って席に戻った影山くんをちらりと見ると、彼の用紙には私の名前が書かれていた。私は自分が言ったことをもう一度思い出す。好きな人。何も、選挙で隣人から恋心を寄せられていることを知りたくなかった。
私は顔を覆ったけれど、相手の投票用紙を見ることが失礼にあたるこの環境ではそれは不自然ではなかった。影山くんの投票用紙を見た上に彼にとって不本意な形で彼の気持ちを知った私をどうか許してください、と誰かに祈った。
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