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「ちょっと冴ちゃん! これどうするの!」
「あ? どうもしねぇよ」

 冴を迎えに行った空港で、冴とマネージャーは揉めているように見えた。私と冴が合流してもまだマネージャーは冴にまとわり続けている。余程のことが起きているのだろうか。ふと彼が持っているコピー用紙に目を止めると、そこには「日本の至宝 止まらないモラハラ」と大きな字で書かれていた。横には冴の写真と、冴が放ったらしい暴言が書かれている。

「これ、週刊誌から送られてきたの。再来週付けで出すって」

 私の視線に気付いたのだろう。マネージャーが困ったように言った。この記事は、未発売の週刊誌の記事だったのだ。私達からすれば冴の暴言はいつものことだが、世間からすればモラルのない人間だと思われるだろう。スポンサーも降りるかもしれない。なのに冴は平然としている。

「冴、お金払って止めたりしないの?」
「するか。馬鹿らしい。そんな記事がどうしたってんだよ」

 冴は週刊誌の恐ろしさを理解していない。ついでに週刊誌に踊らされる人間の醜さも理解していない。ここは何としても止めるべきだろう。

「そのままにしたら絶対ダメだよ! 代わりに何かプライベートを明かして記事すり替えてもらうとかしないと」

 冴は興味なさそうに歩いていたが、私の言葉を受けて止まった。

「その手があったな」

 よかった、思い直してくれた。そう思ったのも束の間、冴は私の顔を掴んでキスをした。一秒、二秒、時間が流れる。三秒経って冴は顔を離した。ここは空港のゲートで、周りに人は大勢いる。おまけに冴は世界の有名人だ。

「今も記者に張られてるから、これで記事になんだろ」
「聞いてないんだけど!」

 確かに記事をすり替えろと言ったのは私だが、私が巻き込まれるつもりは微塵もなかったのだ。冴のために我が身を捧げられないのかと聞かれればそうではないが、今の平穏な生活を手放すのはまだ早い気がする。

「明日からネットであることないこと言われるんだ……」

 私が呟くと、冴は興味なさそうに歩き出した。

「そんなの俺達にとっては日常茶飯事だ。お前だって俺と結婚したらどうせそうなるんだから、今から慣れとけ」

 さらりと結婚を匂わせているが、それで浮かれるような私ではない。誹謗中傷を受けたらたっぷり慰めてもらうからな、と意気込みを新たにして前を歩く冴に追いついた。