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 バレー選手はとにかく指の怪我が多い。左手にテーピングをする時、薬指に巻き付いた白い布を見て感慨に耽ってしまうのはあるあるなのではないだろうか、と俺は思う。まるで結婚指輪だ。いつかここに指輪をはめる日を想像しながら、柔らかいテーピングを巻く。恥ずかしいから人に言ったことはないけれど、なんとなく意識してしまう。その意識が自分の薬指だけではなく、マネージャーの先輩の薬指にまでいったのは思春期というやつのせいだろう。

 突然自分の指を掴んだ俺を、彼女は「え、何?」と言いながらも受け入れた。テーピングには慣れている。彼女の左手の薬指にはズレもめくれもなく、白い布が巻かれた。満足した気持ちと、これからどうしようかという気持ちに包まれる。流石に異性の左手の薬指に手を出しておいて、何も意識していませんは通らないだろう。

 先輩は薬指をじっと見た後、照れるでもなく俺に向き直った。

「こういう備品は部費で買ってるんだから選手に使わなきゃダメでしょ。私に使うのはもったいない」
「……そうですね」

 そこじゃないんだけどなあ、と思いながら俺は頷いた。もう使ってしまったものは仕方ないと思っているのか、彼女はテーピングを外す気配はない。なんとなく今だけ俺のものになったような気がして気分がいい。将来は部費じゃなくて俺のお金で彼女の薬指を包むのだ、と意気込んでみるけれど、稼げるような歳になった時彼女が横にいるかはわからない。今のうちからアピールするにしても、左手の薬指を奪ってこれなら絶望的だろう。俺の前途は、意外と多難である。