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 同棲している部屋に帰宅した白布は、どこか疲れているように見えた。白布の眉間に皺が酔っているのはいつものことだが、なんというか今日は、やつれている。私は白布に寄り添い、「どうしたの?」と声をかけた。すると珍しく、白布は私にもたれかかるように寄り掛かった。

「解剖で女の死体の裸見ちまった」

 白布は医学部だ。実習と称して人間のグロテスクな部分を見ることや、勿論死体の解剖もあるのだろう。白布は生身の人間ならいいけれど死体は嫌なのかもしれない。私は白布の背中を撫で、そのまま自分の服をめくった。

「お清めに私の裸見る?」

 両手を挙げて喜ぶ――とまでいかなくても、白布は喜んでくれるのではないかと思っていた。だが実際はどうだろう。眉間の皺をさらに深くし、私に対して軽蔑したような表情を浮かべている。

「そういうことじゃねぇ。浮気した気分になってんだよ」

 その言葉で漸く、私は白布が何にダメージを受けていたのか理解した。重要なのは「死体」ではなく「女体」であることだったのだ。

「別に私は気にしないよ」
「俺は気にするんだよ」

 私はいいと言っているのに、こういうところが白布の面倒なところだ。白布の帰宅に合わせて淹れたコーヒーももうすっかり冷めてしまっている。このまま今日は機嫌が悪い一日なのかな、と思っていると、白布が顔を上げた。その表情はどこか、期待に満ちている。

「なぁ、やっぱりお前の裸見ていいか? お清めじゃなくて」

 単純に性欲があるわけではなく、別の女体を見て狂った感覚を普段の感覚に戻したいということなのかもしれない。どんな理由であれ白布に求められるのは嬉しいので、私は無条件に頷いた。本当に裸を見るだけで行為に及ばなかったら私が一人で恥ずかしいだけだけど、それは大丈夫だろう、多分。

 カーテンを閉め、1Kの部屋に薄暗闇が訪れる。