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 影山君が私のことを好きだと聞いた時、私は少なからず驚いた。クラスでの影山君にそんな気配はなかったからだ。だが目の前の影山君が嘘を言っているようにも思えない。私はお礼を言った後、今の気持ちを素直に伝えることにした。

「気持ちは嬉しいんだけど、私他に好きな人がいるの。でも、もし影山君がそれでもよければ、いいよ」

 直接「付き合ってもいいよ」と言うのは上から目線のような気がして、私は曖昧に言葉を濁した。影山君と同じく、私は絶賛片思いの最中だ。影山君に告白されて少し揺らいだとはいえ、私が彼を好きなことは事実である。だが恋愛とは、必ずしも両思いから始まるものではない。付き合っていく内に好きになっていくことだってある。今のように、最初は別の人を好きでもいいからと付き合う場合もあると聞いた。私を本気で好いていると思う影山君ならば、頷いてくれると思っていた。

「俺のことを好きな苗字さんとしか付き合いたくないです。好きな人がいるならいいです。あざした」

 影山君は淡々と告げて去って行ってしまう。私はその背中を呆然と見ていた。他の人を好きでもいいから私と付き合っていたいと思うほど、私のことを好きではなかったのだろうか。それとも、完璧な両思いでないと付き合いたくないということこそが本気で好きである証明なのだろうか。そういえば、影山君はかなり頑固な人だった気がする。告白されたのは私なのに何故かフラれたような気分になりながら、私は教室へ歩き出した。

 あれから、影山君を見る目が変わったのは言うまでもない。表面は普通に接するけれど、告白されて普段通りでいられる人なんていないだろう。ましてや影山君は私のことをフったも同然なのだ。急に告白してフった人物として、影山君は私の中でマークされた。きっかけは何であれ、私が影山君を意識するようになったのは言うまでもない。気付けば好きだった彼のことは忘れ、影山君のことばかり考えていた。私は本当に、影山君のことを好きにさせられたのだ。影山君はまだ私のことを好きだろうか。言ってみなければわからない。私は影山君を前回と同じ場所に呼び出した。

「今度こそ好きになってくれましたか」

 影山君は私の用が何であるかを見抜いているようだ。告白する前に、鋭く問いかけられてしまった。

「うん。前言ってた好きな人どころか、全校生徒に向けて影山君が好きだー!って叫んでもいいくらい好きだよ」

 具体的に好意の証明をするのは難しい。気持ちの大きさの例えとして出した話だが、影山君は照れたように手を口元にやった。

「そこまでしろとは言ってないです」

 でも嬉しそうにしてるじゃん、という言葉は飲み込んで、私は「よろしく」と笑った。