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 二人きりの部屋にリップ音が響く。触れては離れ、触れては離れ、肌の様子を確認しては何度も。乙骨の唇が触れているのは名前の唇ではなく、むき出しの首筋だった。乙骨は名前にキスマークをつけようとしているのだ。どうしてそうなったかはさておき、先程から乙骨は晴れない表情をしている。

「ごめん……なかなか上手くできないや」

 いくら吸い付いても、力が足りないのかキスマークはつかない。力ではなく、技巧的な問題なのだろうか。どちらも交際経験に乏しい乙骨には足りないものかもしれない。名前は笑い、乙骨の方へ顔を向けた。

「大丈夫だよ、今度ヘアアイロン当てれば似たようなのできるから」

 ヘアアイロンを上手く扱えず首に火傷を作るのはすべての女子が通る道である。その火傷痕はキスマークに見えないこともないだろう。名前は何度も火傷痕を作っているから今更何とも思わない。けれど乙骨がそれをよしとしない。

「それって火傷ってことだよね? そんな自傷行為みたいなことダメだよ」

 名前を傷付けるものを許さないのが乙骨だ。それが名前自身であったとしても、覚悟に揺らぎはないらしい。名前が拗ねたように唇を尖らせる。

「でも私は乙骨くんのものってマーク欲しいし」

 名前の瞳が物欲しそうなものになる。乙骨の心がぐらりと揺らぐ。名前は乙骨を好きで、乙骨は名前を好きで。お互いがお互いを想うからこそ、こんなことになっているのだ。

「……じゃあ、僕がもっと頑張って男見せます」

 乙骨の言う「男を見せる」とは、周りにアピールするということだろう。キスマークなんかなくても名前は乙骨のものだとわかるように。引っ込み思案の乙骨には難しいことであるが、名前に火傷痕を作ることに比べたら大したことではない。

「あとキスマークの練習も」

 乙骨は意気込んで言った。その少し恥じらった様子が可愛いと、名前は思った。