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 恋人の名前と過ごしている休日、不意に名前が「キスをしたい」と言ってきた。自分からすればいいものを、あくまで俺からさせようとするところが名前らしい。

「いいぞ」

 俺は名前に顔を近付け、唇をつける。その瞬間、シャッター音が鳴った。目を開けると、名前がキスをしながら自撮りの要領で写真を撮っている。やけに器用な名前に呆れつつ俺は顔を離した。

「これで証拠写真撮れた! 冴が私に何かしたらこの写真週刊誌に持ち込むから」

 名前は意気込んでいる。俺が名前に何か嫌なことをするかもしれないと思われているのは癪だが、今までの態度を思い返してみれば俺はまあまあ酷い男なのだろう。それにしても、考えが甘すぎる。

「週刊誌に持ち込むことが嫌がらせになると思ってんのか」
「え?」

 俺は名前のスマホを手ごと掴んだ。

「世界中が俺とお前を恋人だと認める。お前は俺のファンから特定されて何をするにも監視がつく。俺にとってこれ以上ない状況だ」

 俺はアイドルをやっているわけではないのだ。多少ファンは減るかもしれないが、恋愛をしたところで問題はない。むしろ、名前が一般人であることにかまけて他の男についていかないかが心配なのだ。

「私への信用なさすぎじゃない?」
「それはお前もだろ」

 名前の頬を片手で挟む。多感な時期にすれ違いを経験したからか、今もお互いどこかで警戒している。相手がいなくなることを。そう、俺が本当に一番恐れていることは熱愛の発覚ではなく名前がいなくなることなのだ。それは名前も同じだろう。

「お前の一番嫌がることは何だ」

 名前は唇を尖らせ、上目遣いになって言う。

「また冴に突き放されること」

 俺はふっと笑い、名前の頬を両腕で包み込んだ。

「それなら週刊誌の心配はなさそうだな」

 別に持ち込まれてもいいが、俺が名前をまた突き放すなんてありえない。名前を傷付けるようなことをするのもありえない。俺のスキャンダルは、当分なさそうだ。