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 私の家は没落した元名家だった。元より御三家に数えられるほどではない。それでも父や祖父は自らの出自に誇りを持っていたし、家を再興しようと必死だった。そんな彼らの元に生まれた私に、縁談の話が来るのは必然だった。相手は呪術界の有名な家だ。私よりうんと歳が離れていて、若い娘を嫁に貰うことに興奮しているようであるけれど、父にとってそんなことはどうでもいい。私は齢十六にして人生の行く末が決まってしまったのだった。

「じゃあ俺と結婚しようよ」

 雑談のつもりで縁談の話をした時、五条はそう言った。大きな体を窮屈そうに椅子に閉じ込め、天井を見ながらのことだった。その様子からは、自分の発言を大して気に留めていないことがわかる。

「名前がおっさんと結婚するの見てられないし。ちょっとイチャついたフリすれば大丈夫だって」

 五条は私に情けをかけているのだ。私が可哀想だから。そんなことをされるくらいならば私は年の離れた婚約者と結婚する方がましだった。だって五条は、私の好きな人なのだから。好きな人と、心が通じ合わないまま結ばれるなんてそれほど残酷なことはない。

 五条はいいことをしているような顔をして、私の方を見た。

「俺達友達だろ?」

 その表情は、お互い家で苦労するな、とでも言いたげだった。五条は私を友達としか思っていない。友達だから、助けようとする。言われていることはプロポーズなのに、これ以上ない失恋の告知だった。私は涙を必死でこらえた。けれど、こらえきれなかった涙が一滴、二滴と落ちた。

「ちょ、どうしたんだよ」

 五条は焦ったように私を覗き込む。私は涙を拭って、心にもないことを吐き出した。

「いい友達を持ったなと思って」

 本当は、友達ではなく恋人になりたかった。今そんなことを言ったら五条の友達としての好意を無下にしてしまうから言えない。一生言うことのない、私の秘密だ。