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 清峰くんの部活が始まるまでの間が、私達に許された僅かな逢瀬の時間だった。放課後の教室で二人寄り添ったかと思えば、清峰くんが顔を近付ける。その顔の傾きを見て、私はキスをするのだと直感した。目を閉じて唇を差し出せば、清峰くんの唇が触れた。舌が入るわけではない。それにしては、随分長い間キスをしている。

 清峰くんは、唇を離してから言った。

「イチゴの味がする」
「さっきリップ塗ったから……」

 私がドラッグストアで仕入れた今年のリップは、イチゴのフレーバーがついていた。それはほんの香りにすぎないのだけれど、清峰くんのように長い間触れていれば「味」になるらしい。清峰くんはご機嫌そうに唇を舐めた。舐めると唇が荒れるよ、とリップを差し出そうとしたけれど、キスをした後だというのに何故か間接キスが恥ずかしかった。

「したい」

 あれから清峰くんは、やたらとキスをねだるようになった。誰も見ていないところならば私もいいのだが、その理由が理由だ。

「名前とキスすると、お菓子食べた気持ちになる」

 清峰くんは要くんがアホになる前の言いつけを守っている。お菓子や添加物の多い食べ物は口にしない。その結果、清峰くんがお菓子を食べた感覚を味わえるのは私とのキスだけということになる。好きなのはお菓子じゃなくて私だよね、と確かめたくなるけれど、キスをする直前の清峰くんの顔を見ればその質問が不要であるのは明らかなのだった。