▼ ▲ ▼

 一年で最も大きなイベント、文化祭が終わった。クラスはどこか達成感と疲労感に包まれ、打ち上げの予定を伝える声が大きく響いている。

「じゃあこの後ガスト集合なー!」

 多くが返事をする中、一人教室を出て行こうとする影があった。本人は目立つまいとしているのだろうが、その大きさゆえに目立っている。

「あれ? 佐久早くん文化祭の打ち上げ行かないの?」

 席が近く、文化祭でも同じ担当だったよしみだ。なんとなく、部活で多忙な佐久早くんに伝令をするのは私の役目になっていた。佐久早くんは足を止めると、無表情の顔をこちらに向けた。

「俺は部活で殆どクラスを手伝えなかった。なのに楽しい場面だけ来るのは違うだろ」

 佐久早くんの所属しているバレー部は強豪だ。練習が遅くまであって準備には殆どいなかったし、当日だって部活の出し物を優先していた。だからクラスの打ち上げに出ないというのは、何とも生真面目な佐久早くんらしい。でも、佐久早くんにだって文化祭を楽しむ権利はあるはずだ。

「それじゃあ佐久早くんの思い出バレーだけになっちゃうよ! 佐久早くんはもっと学校生活楽しんでいいんだから!」

 私は気付けば佐久早くんの腕を掴んで歩き出していた。今日ばかりはバレー部も練習がないと聞いたことがある。片付けをするまでは、体育館も使えない。

「おい、どこ行くんだ」
「焼肉!」

 クラスの打ち上げに佐久早くんが行きづらいと言うなら、私と二人で打ち上げをすればいい。盛り上がりには欠けるかもしれないけれど、何もしないよりましだ。

 私はクラスメイトの連絡を無視して駅前の焼肉屋に入った。二名と伝えて席に着く。すると向かいには、クラスメイトが勢ぞろいしていた。驚くのは私だけではない。クラスメイトが、何故打ち上げに欠席して私と佐久早くん二人でご飯に来るのだという目で見ている。

「直前でガストから牛角に変更になったんだよね」

 言い訳をするように、クラスメイトの一人が言った。どことなく気まずい空気が漂っている。それは多分、私と佐久早くんが男女であるせいだ。

「苗字と佐久早が打ち上げ欠席したのって、そういう感じだったの?」

 私は佐久早くんに青春を謳歌してほしかっただけなのに、気付けば恋愛の形にあてはめられようとしている。恋愛も青春か、と納得している内にすっかりクラスメイトは私達をカップルとして扱い始めていた。佐久早くんも何か言ってくれればいいのに、何も言ってくれない。クラスメイトのはしゃぐ声が遠くに聞こえる中、私と佐久早くんは二人で肉を焼いている。