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指輪を名前にやろうと思ったのは、ほんの思いつきのことだ。おれはしようと思えば心臓の交換すらできてしまう。その中で心臓に一番近い指を予約しておくなど意味のないことのように思えたが、名前ならきっと犬のように喜ぶのだろうと思った。しかし、現実はそう上手くいかなかった。
「いらないです」
プロポーズをしたわけではない(というか、そういう風にかしこまるのはおれの性分ではない)。島でいい店を見つけたから、お土産に。そういった風に渡せば、名前は片手を突き出した。
「指輪って夫に何かあった時に売って生活をするためのものでしょ? ローが死んだら懸賞金貰うからいらない」
確かに指輪にはそんな意味があったと思う。名前がおれと結婚する気まであったことも、おれが死んだ後のことを考えていることも意外だった。それにしてもなんという生活費の工面の仕方だろう。おれが死んだ後の懸賞金をあてにされるくらいならば、生きている最中に宝石や金をねだられた方がましだ。
「お前にはロマンってもんがねェのか。そもそも海軍に行ったらお前も捕まるだろうが」
名前も一応指名手配犯である。おれの身柄を渡せばその場で拘束だ。その計画は破綻していると言える。
おれに指摘されて、名前はへそを曲げたように顔をそらした。
「それじゃあ別の人に代行頼む!」
「おれが死んだ後他の男と関わるな」
おれは名前の手をとり、無理やり名前の左手の薬指に指輪をはめこむ。それはドラマで見るような光景ではなく、まるで家畜に言うことを聞かせるかのようなやり方だった。
「ローこそもっとロマンのあるはめ方してよ〜」
名前はそう言いつつも、指輪を外そうとしない。多分だけど、おれが死んでも名前は指輪を売らないだろう。名前がおれから貰ったものを大事にしているのはよく知っている。せいぜい、おれ自身も大事にしてほしいものだ。
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