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轟くんのヒーロー事務所の近くで事件が起きた。一番に着いたのは私だったのだが、事務所から近いということで轟くんも現着した。普段、荒くれた事件を取り扱うことが多い轟くんが、このような――警察が担当するような、女性の誘拐事件を担当するのは珍しいことだった。
てっきり轟くんは事情聴取を他に任せて犯人の元へ戦いに行くのかと思いきや、彼は恋人が誘拐されて泣きわめいている男性の背に手を当てた。
「気持ちはすごくわかります。でも今は一旦落ち着きましょう」
雄英にいた頃、特に体育祭のあたりから考えたら信じられない成長だ。轟くんは丸くなったけれど、それでも普段は被害者のケアより加害者の制圧を優先しているイメージがある。
彼が被害者の元を離れてから、私はそっと轟くんに近付く。
「轟くん珍しいね」
轟くんに励まされたからか、恋人が誘拐された男性は少し冷静さを取り戻している。もしかして、あまりの取り乱しように見苦しくなってやったのだろうか。いや、轟くんはもっと優しい人のはずだ。
「お前が攫われたらって思ったら、俺もすげぇあの人の気持ちわかったんだ」
横目で男性を見ながら言う轟くんに、思わず声が漏れる。
「え」
攫われたのは男性の恋人だ。轟くんにとってのそれが私なら、轟くんは私に恋愛感情を抱いていることになる。
私が何か言いたそうにしているのを察したのか、轟くんは片手を顔の前に立てた。
「苗字はヒーローなんだから攫われねぇよな、悪い」
そこではない。私が言いたいのはそこではない。とても突っ込みたいけれど、私の方から言うのも変な話なので言わないでおく。いつか轟くんの感情の正体を知る日が来たらいいなと思う。
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