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「バレーしてる佐久早が好きだよ」とは、かつて私が佐久早に告げた言葉である。だから付き合ってほしいという意味ではなかったし、本当に言葉通りの意味を伝えたかった。佐久早も返事を求められているわけではないと悟ったようで、「ふうん」と言って終わりだった。だが恐らく女子の中では一番に仲が良い私には、その後の佐久早の機嫌がやや良くなったのがわかった。告白したわけではないものの、実際に佐久早のことが好きな私には嬉しかった。

 私は佐久早が好きなまま、佐久早は恋愛をしているのかすらわからないまま、数か月の時が流れた。佐久早が誰かにとられてしまうのではないかという気持ちもあったけれど、佐久早は誰とも付き合っていないようだった。佐久早の中で私のあの言葉は生きているのだろうか。思わずそんなことを考えていた時、佐久早はふと話しだした。

「バレーやってる俺が好きってことは、バレーしてない俺は好きじゃないってこと?」

 私は咄嗟に声が出てこなかった。佐久早が私の言葉を覚えていてくれたというだけではない。今はちょうど進路の話をされたばかりで、佐久早の言葉は将来当たり前に続けると思われたバレーを辞めるのではないかと思わせるものだったからだ。

「推薦、来てたんじゃないの。バレーの」
「別に辞めるわけじゃない。ただ気になっただけ」

 そうなると、ますます佐久早が考えていることがわからなくなった。バレーを続けるのなら、バレーを辞めた時私が佐久早を好きかどうかなんてどうでもいいことだろう。というかどちらにしろ私の気持ちなどどうでもいいと思われていると思っていた私には衝撃だった。

「私は、どんな佐久早でも好きだよ」

 バレーを辞めても、という意味で言ったが、言葉を変えたら凄い言い方になってしまった。佐久早は何も気にしていない様子で、「そうか」と頷いている。佐久早はそれによって何を思うのだろう。私達二人がふわふわとした雰囲気に包まれていた時、隣で吹き出す音がした。

「もうプロポーズだろ、これ」

 佐久早の親友の古森君だ。私としては言葉の裏を確認しただけだが、やはり傍目にはそう映っていたらしい。いたたまれなくなるが、きっと佐久早が否定してくれるだろうと思っていた。発言したのは私なのに否定しないのは、佐久早に少なからず恋心があるからだ。

 佐久早はどうでもいいような表情をして「そうだな」と言った。そうだな。佐久早も言葉を確認しただけでなく、恋愛の気配があると感じながら会話をしていたのだ。

「苗字が可哀相だろ。そろそろちゃんとお迎えしてやれって」
「それだと俺から告白したみたいになるだろ。俺は自分から告白しない」

 本人の目の前で恋バナをする二人を見て、私は居ても立っても居られなくなった。佐久早の言葉を聞いていれば、私には随分可能性があるように思える。

「あの、それって私が告白したらオーケーってこと?」

 勇気を出して尋ねると、佐久早は顔色一つ変えずに答えた。

「そういう風に接してきたつもりだけど」

 ていうか最初から付き合ってくださいって言われてたら付き合ってた。佐久早は衝撃的な言葉を残し平然と古森君と話している。この際佐久早に告白したくないという謎のこだわりがあることはどうでもいい。目の前に迫る色恋の香りに、私は声を出さないようにするのがやっとだった。