▼ ▲ ▼

 出発前のゲートにて、私は及川と向き合っていた。それまで大勢の友達や仲間が及川を囲んでいたのに、まるでそうするべきだと言うように彼らは去ってしまった。私は及川の恋人ではない。二人きりで挨拶をする立場ではないのに、及川も私も何故か受け入れている。及川はじっと私を見て、私の言葉を待っているようだった。

「私以外の人傷付けたら浮気だからね」

 殊勝なセリフが出てしまったのは、二人きりにされたことに少なからず図に乗ってしまったのだろう。及川は笑うでもなく、そんな私を受け入れた。

「俺がそんな誰でも傷付けると思ってるのかよ」

 及川の表情からは、感情が読めない。傷付けて申し訳ないと思っているのか、傷付けさせる私を憎いと思っているのか、はたまた好きなのか。そのどれもだと今は思う。つけあがりではなく。

「お前以外は傷付けないよ、お前は特別なんだから」

 私は視線を下げて口角を上げた。こぼれるような笑みだった。及川の特別でありながら彼女になることは許されず、傷付けられることだけを許されている。傷付くことは特権なのだ。その相手に選ばれたことを、嬉しくも悲しくも思う。

「行ってらっしゃい」

 今生の別れになるかはわからない。ただ私は、及川の傷として及川の中に残り続けるのだと思う。及川もまた、私の中に傷として残り続ける。もしかしたら愛し合うよりも深い関係なのかもしれなかった。