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ラウンジを歩いていて、ふと足を止めた。一人で座って食事をしている苗字。おれの頭の中では、彼女が大喜びしている未来が視えていた。単に暇だから、興味があったから。それでしかないのだが、おれは苗字の向かいに腰かける。
「苗字、宝くじ買った?」
おれが話しかけると、苗字は落ち着いた様子で返す。
「買ってないです」
「ライブの当選発表は」
「応募してません」
「これからテスト返されるとか」
「今日休日ですよ」
どれも平然としていて、おれが視た未来のように興奮状態ではない。ここからどうやって喜びを爆発させるに至るのだろうか。原因のわからない未来が視えるなどよくあることなのに、おれはどうしてか気になってしまった。
「うーん、何なんだろう……確かに喜んでる未来が視えたんだけどなぁ」
おれに視えているということは、もう確定していることになる。しかもそれはかなり近くの未来だ。おれがラウンジを訪れてからの間に、苗字を喜ばせるようなことがあったのだろうか。
「気になりますか?」
苗字が言うので、おれは頷いた。「当てたい」
「私にはわかってるので教えます」
苗字はテーブルに身を乗り出し、囁くような体勢をとった。おれは頭を苗字の方に向け、耳を傾ける。苗字は小さな声で言った。
「迅さんと話せたからですよ」
おれは今すぐ顔を覆いたいような気持ちに襲われる。おれが来た時点で苗字の未来が確定したのも、喜びつつどこか照れているようだったのもそのせいだったのか。おれは体を離し、精一杯普通の表情を作ろうとする。
「おれ、そうやって直接言われるのに弱いみたい」
誰にも心の居場所を渡さず、のらりくらりとしているのがおれだ。告白されたことがないわけではないけれど、どれも今の関係を続けようという方向で断ってきた。苗字は好きだということを隠さないし、そのくせに付き合ってほしいとか決定的なことは言わない。
「私のこと意識したら教えてくださいね」
そう言った苗字にもうしてるよと言いたいのを我慢しておれはテーブルを離れた。苗字が照れながら喜んでいる未来は視えていたけれど、おれが照れる未来は視えなかった。おれのサイドエフェクトも、まだまだである。
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