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最近上手く眠れていない気がする、という話をした時、友人に睡眠管理アプリを勧められた。そのアプリは睡眠中の音声をスマホで録音することで、睡眠時間やレム睡眠、ノンレム睡眠を記録するのだという。早速インストールし、スマホを傍らに置いて私は眠りに落ちた。聞こえてきたのは私の寝息と、それに紛れて囁かれる確かな声だった。
「名前ちゃん、好きだよ」
「可愛いね」
時刻は午前二時を回った頃。草木も眠る丑三つ時に、まるで幽霊のようにその男は現れた。私は声を聞いてすぐに南雲さんだとわかった。私にそんな言葉を囁くのも、施錠されているドアを開けて簡単に忍び込めるのも南雲さんしかいないのだ。
怖い、という気持ちとは別に、興味のような気持ちも湧いた。このまま寝たふりをていれば南雲さんは今日も来てくれるのかと。まるでサンタクロースの正体を確かめようとする子供のような気持ちで、私は狸寝入りを決め込んだ。そして午前二時、南雲さんは現れた。彼は毎日来ていたのだ。南雲さんが素面では到底言いそうにないストレートな愛の言葉を一通り囁いていく。それから、悪戯っぽい声でこう言った。
「ほんとは起きてるんでしょ?」
私が目を開けると、南雲さんの顔は案外近い場所にあった。
「あはは、おはよう」
私は南雲さんを無視して言った。
「何でアプリで録音してるって知ってて続けたんですか」
南雲さんが睡眠管理アプリの存在に気付かないわけがない。南雲さんならば、隠そうと思えば夜な夜な私の家に忍び込んでいることを隠し通せたはずだ。これは意図された発見なのだ。もしかしたら、友人に睡眠管理アプリの話をさせるように仕向けたのだって南雲さんの差し金かもしれない。
「僕のこと意識してくれると思ったから」
「それなら普通に告白してくれれば……」
私が言うと、南雲さんは急に真面目な顔になって私を見つめ返した。
「意識した? 本当に? 僕がふざけてると思うんじゃなく?」
そう言われれば、私は言葉に詰まってしまう。南雲さんに告白されても、どうせ本気ではないのだろうと思っていただろう。夜間に忍び込まれるような真似をされなければ。
「それなら普段の態度を改めてください」
私が顔を背けると、南雲さんは「じゃあここからは真面目だよ」と言って距離を詰めた。南雲さんの丸い瞳と私の瞳が一直線に結ばれる。その瞳から普段の面白がるような気配が消えるのを、私はじっと眺めていた。
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