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「お前ちょっとこれにサインしてくんね?」
と玲王が紙を突き出すことはよくあることだった。一度目は婚姻届。二度目も婚姻届。三度目は何だったかもう忘れてしまった。このご時世も考えて、今度は性的同意だろうか。仮に私が訴えを起こしたところで玲王はどうにでもできるだろうし、そもそも私は玲王との行為全般に同意しているのだが。
どちらかだろうと受け取ってみれば、そこにあるのは発信者情報開示請求の同意書だった。聞き慣れない言葉に私は思わず顔を上げる。
「どういうこと?」
玲王は婚姻届を出してきた時とは違う、至って真剣な表情で続けた。
「お前の誹謗中傷を訴えるにはお前の同意が必要らしい」
要するにこうだ。玲王が私に対する誹謗中傷を訴えようとしても、玲王は私本人ではないからできない。するには私の同意が必要なのだ。それにしても、玲王が開示請求をしようとしているだなんて初めて知った。誹謗中傷は著名人の宿命のように考えているイメージがあったからだ。
「玲王アンチコメントを訴えてないじゃん」
私が言うと、玲王は腕を組んで言った。
「俺のはな。でもお前は別」
玲王は自分への中傷は許せても、玲王と付き合っていることによって発生する私への中傷は許せないのだろう。私だって別に気にしてはいないのだけれど、面倒なことになってしまった。これならばまだ婚姻届の方がましだったかもしれない。そう言ったら本気で結婚しようとするので、玲王には言えないけれど。
一度決めたら行動力の強い玲王をどう説得するか、私は途方に暮れた。
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