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 誕生日一週間前、私の元に送られてきたのはシドニー行きのチケットだった。

 私の恋人は多忙な人だ。呪術界を一身に背負い、事件が起きれば東西へ駆けつける。時には海外へ出向く時もある。そんな恋人にチケットはどういう意味か、と連絡するのは憚られた。派手なことが好きな彼のことだから、現地で待っていてサプライズをしているのかもしれない。私は心を躍らせつつ飛行機に搭乗した。

 恋人との時間はかなり貴重で、約束なしに急に会うことなどざらである。ゲートを通ったら悟が待っているなんてことはなく、私はチケットに添えられていたホテルに向かった。最上階のスイートルームだった。扉を開くとき一瞬期待したものの、そこにも悟はいなかった。あと数時間で私の誕生日は来てしまう。それまでに、悟は訪れるのだろうか。

 結論として、誕生日十分前になっても悟は来なかった。急に来られなくなってしまったのか。そもそも来ない予定なのだとしたら、何のために私をシドニーまで寄越したのか。この一人旅がプレゼントということだろうか。時計の針が刻一刻と進む。その秒針が頂上をさした時、私のスマホが震えた。

「誕生日おめでとう!」

 恋人の、弾けるような声である。私はほだされつつも、冷静に状況を尋ねた。

「ありがとう。何でシドニーに連れてきたの?」

 電話は国際電話のようだった。悟はシドニーにいない。余計に謎は深まるばかりである。

「だって僕日本時間の午前零時には任務で電話できそうになかったから。時差があれば、誕生日ぴったりに電話できる」

 悟の多忙さが染み入ると共に、その行動の自由さに慄く。

「それだけのためにシドニーに来させたの!?」
「名前だってほいほいついてきたじゃん」

 そう言われてしまえば仕方ない。悟がいるかもしれないと思ったら、私はどこへでも行く。悟がいなくたって、私は電話一つで喜んでしまう。それくらい好きなのだ。

 悟は私が今思ったことと同じことを電話で言った。優しい優しい声だった。