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 朝の犬の散歩をしている時、ランニング中の影山くんとすれ違うのは恒例行事だ。最初は目を合わせるだけだったものの、影山くんが頭を下げてくれるようになり、それなりにコミュニケーションが生まれている。今日はもうランニングの終わりだったのか、影山くんは私の前で足を止めた。

「難しい顔してどうしたの?」

 影山くんは、何かと戦うような表情をしている。彼のことだからランニングが辛いわけではないのだろう。影山くんは視線を下に向けながら、ぽつりと呟いた。

「俺は嫌われてる気がする」

 それに私は大きく反応した。影山くんはクラスメイトであっても話したことはなかった。挨拶をするべきか、無視したら悪いのではないかとずっと迷っていたのは私の方だ。結局影山くんの方から挨拶をしてくれて、私はそれにつられる形になった。二人だけの特別のような朝の時間を、いや影山くん自身を、私は好きになっていた。

「そんなことない、っていうかむしろ……好きだけど……」

 こんな状況で告白することになるなど思っていなかった。影山くんは大して動揺することもなく、堂々とした態度を崩さない。

「好きならもっと近寄ったりとか舐めたりとかあるだろ」
「舐めなきゃダメかな!?」
「よくするだろ」

 近寄ることはわかる。でも、付き合ってもいないのに舐めるは行き過ぎな気がする。影山くんの中では片思いをしている人はそういうものなのだろうか。

 本当に恥ずかしいけれど、私は影山くんの手をとった。影山くんが舐めろと言うのだから仕方ない。

「私は影山くんが好き」

 そして手を口に近付けようとした時、影山くんが口を開いた。

「……犬に言われるよりも嬉しい」

 影山くんが俯いていた理由、舐めると言っていた意味。私は漸く理解した。

「犬のこと言ってたの!?」

 私が言うと、影山くんは少し照れたような顔で返した。

「苗字からはなんとなく好かれてるのわかってた」
「じゃあ今の忘れて!」
「忘れない」

 これから影山くんが告白の返事をしてくれるのか、はたまた私達はまた朝の友人に戻るのかわからない。でも「忘れない」と言った影山くんの表情を見るに、私達の未来はきっと明るいのではないだろうか。そう思わせられる朝の出来事だった。