▼ ▲ ▼

 ホームルーム間際の廊下は朝練を終えた生徒で混雑する。私も自分の教室へ向かおうとした時、「おい」と呼び止められた。この声、そして呼び止めるのに体には触れないところ。どれをとっても佐久早であるとわかった。

「今日オフだから放課後ファミレス奢ってやる」

 随分と上から目線で――実際に奢ってくれるのなら上から目線でいいのだろうけれど――佐久早は言った。私に心当たりのようなものはない。佐久早に感謝されるようなことをしただろうか。私の戸惑いが伝わったのか、佐久早は言葉を足した。

「お前、俺の追っかけして遠征の試合とか毎度ついてきてるだろ。そのお礼だよ」

 確かに、私は佐久早の追っかけをしている。全国規模のバレー部となれば試合で東西を回るのは日常茶飯事で、他の友達がアイドルのコンサートに遠征するように私は佐久早の試合を観戦しているのだ。佐久早だってバイトをしているわけではないのだからお金に余裕はないだろうに、私の懐事情を気にしてくれるらしい。私が好きでやってるからいいんだよ、と言おうとしたが、あまり好意を前面に出すと佐久早から鬱陶しがられる可能性がある。

「それなら学食を奢るとかでもいいんじゃ……」

 お礼をするなら校内でもできる。購買でプリンを一個買ってきてもらえるだけでも私は嬉しいのだ。思いついたままに話すと、佐久早の横からひょっこりと古森くんが顔を出した。

「佐久早はデートしたいんだよ」

 古森くんは調子がいい。佐久早は否定するかと思いきや、舌打ちをして目をそらすのみだった。いつも私の遠征と同列にしていた友達の推し活にごめん、と謝る。私の推し活は、どうやら推しから好意が返ってくるようだ。それも、私一人に向けて。佐久早の追っかけが推し活になるのは、もう終わりかもしれない。