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「年賀状交換しない?」
それが私の最大の譲歩だった。
佐久早とは恋人をやらせてもらっている。春高を直前に控えた今、一緒に初詣や年越しどころか会うことすらままならない。佐久早なら春高がなくてもそういう場所へ行くことは嫌いだということは置いておいて、一年に一度しかないイベントを見過ごすわけにはいかなかった。あけおめメールではどうも味気がない。
佐久早から了承を得て、私は元旦に郵便受けの前で落ち着かずに歩き回った。佐久早とメールのやりとりはしたことがあるのに、年賀状となるとどうも緊張する。佐久早は私の半分でも同じ気持ちを味わっているだろうか。
遂に郵便屋さんが来て、私は年賀状を受け取った。夢中で束をめくって、佐久早からの年賀状を見つける。この時の私は、まさしく犯人の匂いを嗅ぎ当てる警察犬のようだった。
期待した気持ちで裏返してみると、そこにあった写真を見て心がしぼむ。年賀状には、「結婚しました」の文字と共に正装した佐久早らしい男性が女性と一緒に笑っていたのだ。これは何かのドッキリなのか。それとも、もう近付いてくるなという佐久早からのメッセージなのか。
呆然としたままこたつで年賀状を眺めていると、携帯が震えた。
「兄貴の印刷した年賀状を間違えて送った、本当に悪い」
私の心に安堵が広がっていく。佐久早が結婚したわけではなかったのだ。よく考えれば佐久早はまだ結婚できる年齢ではないのだけど、そういうことを考える余裕はなかった。
「新年から大変だったね」
私は差しさわりのない返事を送った。佐久早からのメールは続いている。
「兄貴もお前に挨拶したいって言ってたから、まあちょうどよかったかも」
私はその一文を見て目を瞠る。佐久早が、私のことを家族に話していたのだ。それは私のことなどどうでもいいような顔をしているいつもの佐久早からは想像もできないことだった。
「とにかく、俺の年賀状を送るから」
あれほど楽しみだった佐久早の年賀状がもうどうでもよくなっている。言葉一つで私をこうも動かすなんて、佐久早は魔法使いみたいだ。
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