▼ ▲ ▼

「ロイが死んだ」

 随分懐かしい相手からLINEが来た。その内容は、飼っていたペットが死んだというものだった。

 ロイは、私達が同棲を始めるにあたりお祝いがてら買ったトイプードルだった。聖臣のことだからきちんと考えて買ったのだろうけれど、ほぼサプライズのように出された子犬に私は大層盛り上がった。名前はその時読んでいた漫画のキャラクターから貰った。聖臣と私は交代で散歩をし、餌をやり、ロイを可愛がった。私達が喧嘩をしている時でも、ロイはまるで宥めるようにきゅうんと鳴いていた。私達が別れるとなった時、ロイは聖臣が連れて行った。聖臣がお金を出したのだから当たり前だ。私は時折寂しくなったりもしたけれど、ロイに会うことは聖臣にも会うことを意味するのでなかなか会いには行けなかった。結果、このざまだ。

 逝去の報せをくれるだけいいのかもしれない。それは聖臣なりの礼儀というものだろう。聖臣は、明日納骨があることを教えてくれた。聖臣と会う気まずさよりも、ロイの納骨に立ち会いたい気持ちの方が勝った。ペット霊園の場所が送られてきて、私はその場所をブックマークしておいた。

 ロイは結構なお金をかけて弔われたようだった。ペットの死体なんて庭に埋める人もいるだろうに、ロイは専用の墓を貰っている。ロイの墓の前で手を合わせると、聖臣が現れた。

「ロイが好きだったから」

 ロイが生前好んでいたおやつを墓に置く。久しぶり、とかそういう言葉は必要ない。私達はロイのために集まっているのだから。

 一通りの儀式を終え、私達は立ち上がった。なんとなく、二人共これからどうするのかと聞きたくて聞けないような空気があった。私達はとうに別れた他人だ。でも、昔は恋人同士だった。沈黙を破ったのは聖臣だった。

「ラーメンでも食うか」

 私は聖臣の様子を伺うように顔を上げ、その表情が普通であることを認識してから「うん」と頷いた。

 駅前のラーメン屋は男性客で混雑していた。デートならまず来なかっただろう。でも私達はデートではない。

 無言でラーメンを食べ、暖簾をくぐる。これからどうする、という会話を向こうからしてくれないかとお互いに思っている気がした。しかし私達はロイの慰霊に来たのであって、昔の縁を温めにきたわけではないのだ。ロイの死を聖臣との復縁に利用したら、ロイに悪い気がした。もしかしたらロイはそれを望んでいたかもしれないが。

「じゃ、俺あっちの線だから」
「うん、じゃあね」

 改札前ですらない、ラーメン屋の前で私達は別れた。私と聖臣を繋ぐものはまた一つ減った。もしかしたらこれが、最後の繋がりだったのかもしれない。けれどもしも私達が運命ならば、またどこかで巡り合うはずなのだ。

 私は聖臣と逆方向へ歩き出した。ロイに捧げた線香の匂いが、やけに鼻についた。