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 きっかけは、俺の些細な一言だった。

「オマエ太った? 正月太りか」

 休み明けに会った名前が丸くなったような気がしたから、正直にそれを指摘した。傑にはそういう所がデリカシーがないと称される所以なのだと言われたけれど、別に俺だって悪い意味だけで言ったわけではない。肉がついて少しは巨乳になったんじゃないかとか、そういう意味だってある。

 ところが名前は俺の発言を真剣に受け止めたようで、翌日からダイエットを開始した。いかにもらしいランニングウェアを着て寮から出ていこうとする名前を見て、俺は思わず声をかける。

「ダイエットって暗くなってから外走るんじゃねぇだろうな」
「いいじゃん。ジム行くお金ないんだから」

 名前はそこそこ戦闘ができる呪術師だ。でもそれはあくまで呪霊に対してであって、力の強い男には無力だ。まだ日が短い季節だし、名前を暗い中走らせるのはどうもいただけない。かといって俺がわざわざジムの料金を払ったら、何の狙いがあるのだと怪しまれそうだ。俺には単純な下心しかないのだけど。

 名前の安全、それから俺の少しの下心。すべてを解決する方法があった。

「じゃあオマエうちの庭内周しろよ」

 名前は拍子抜けした顔をして俺を見た。俺はこの近くにある別邸の位置を教え、使用人に話を通すため携帯を開く。

 それから数日後、俺は別邸の庭にて敷地内を走る名前を眺めていた。緑茶と甘味片手にそうしていたら、一人だけ物見遊山かと怒られそうだ。

「坊ちゃん、最近はよく帰宅なさいますね」

 緑茶のおかわりを注いできた使用人に向けて俺は笑ってみせる。

「ハムスター飼い始めたからな」

 俺の庭をぐるぐると走り続ける名前はまるで、ハムスターのようだ。余計な脂肪まで落とすなよ、と念じながら俺は熱い緑茶を飲んだ。