▼ ▲ ▼
「うちの店のモデルやってくれません?」
外を歩いていてそう言われた時、ナンパかカットモデルの類だと思った。普段ならこういう声かけにはついていかないのだが、生憎私の髪は伸びきっており金欠の状態にあった。目の前にいる青年はまあまあの美形だ。私の写真が美容院に貼られてしまうとしても、彼に切られるのならそこまで悪くはないだろう。そう思ってついて行った先は、美容院ではなく飲食店だった。
「はい、じゃあこのおにぎり食べてもろて」
「カットモデルじゃないんですか!?」
「うちはおにぎり屋です」
気付けば周りにはプロのカメラマンらしいスタッフが並んでいる。先程の青年は店主なのか、それを近くで監督している。若いのによくやることだ。一方同じくらいの年代で美容院にも行けない程度の金欠である私は、カットを餌にまんまとつられた。美容師が数か月放置された私の髪に疼くのはわかるが、彼はどうして私をモデルにしようと思ったのだろう。
「何で私に?」
私が尋ねると、彼はにっと笑って言った。
「お姉さんが一番可愛かったからやで」
その姿に、なんとなく学生時代の立ち位置を想像する。きっといわゆる一軍で、散々モテてきたのだろう。
「やっぱりナンパじゃないですか」
私が言うと、「まだ口説いてへんよ」と言いながら彼はカメラマンに指示を出した。まだとは何だ。やはり彼は学生時代から変わらず遊び人のままなのだ。
「照れてる内に一枚撮っときましょー」
「うるさい!」
後日知ったことだが、彼はやはり学生時代からモテる運命にあった。けれど自分から声をかけたのは私が初めてのようだ。そんな込み入った話をするくらい、私はおにぎり宮の常連になっている。彼――宮治のナンパが成功したかどうかは、また別の話だ。
/kougk/novel/6/?index=1