▼ ▲ ▼


「俺苗字のことが好きなんやけど」

 夜の十一時、送られてきたメッセージを見て私は目を見開いた。相手は同じクラスの治だ。治とは親しい仲だが、決して異性として見ていないというわけではない。しかし、友達でいた期間が長いからこそ、私は答えあぐねていた。治は顔もいいし、バレーもできるからすぐに好きになることもできるかもしれない。だが植え込まれた友達の感覚は早々抜け切らないと思う。断るにしても、他の友達も含めグループでつるんでいる治と気まずくなるのは避けたい。治は器用だから今まで通りに振る舞うだろうが、私が何かしらの感情を抱いてしまうのは事実だ。

 結局、返事はできなかった。既読だけつけて返事をしないというある意味最悪のことをしてしまった。明日には学校があるから、治が本気なら何か言われることだろう。

 新入生のような緊張感を持って私は教室に入る。予鈴が鳴ると、朝練を終えた運動部が続々と登場した。その中に治を見つけ、私の手が止まる。治も私に気付いたようで、私達は数秒間見つめ合った。沈黙を破ったのは私でも治でもなかった。

「あれ? 結局あのラインどうなったの?」

 治と一緒に入ってきた角名である。どうして角名が告白のことを知っているのだろう。思わず角名を見ると、角名は平然と告げた。

「合宿で高橋に送られたやつ」

 私の頭の中で何かが結びつく。連休中、バレー部は合宿をしていたのだ。そしてあのメッセージは、治ではなく治の友達がふざけて送ったものだった。悩んで損をした。長いため息を吐いた後、私は鋭い目つきで治を見上げた。

「ふざけて送ったんはわかったけどさぁ、治も治やろ。後でちゃんと否定せえや」

 治との友情が崩壊する危機すら感じていたのだ。治は何かと呑気な人間だが、ただの友達に悪戯で告白をされたら普通焦って否定するだろう。だが治は相変わらず呑気な表情で告げた。

「本当のことやから」

 今度こそ動きを止めた私を置いて、治は何でもないように自席につく。治はどうして平然としていられるのだろうか。仮に私を好きだとしても、自分の意図しないタイミングで、人の言葉で告白してしまったのだ。治はそれすら気にならないのだろうか。

 隣人に一限目の教科を聞いている治はまるで気にしている様子がない。治は私の返事を求めていないのかもしれない。これでは、二重に感情を引っ掻き回された私の一人損ではらないか。悔しいけど嬉しくて、私はスマートフォンを開くとオーケーのスタンプを送った。告白はしたけど交際の申し込みをしていない治はこれに何と答えるだろうか。せめて私の半分くらいは悩んでほしい。