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 とある日に行われた試合にて、知り合いである苗字さんが観戦しに来ていた。俺達が知り合いであることはチームメイトにも知られているので、試合終了後自然と俺と苗字さんの場が設けられる。周りでは、やはり選手達が関係者席に来た知り合いと交流していた。

 苗字さんは俺の高校の先輩であり、東京へ来てから頼れる数少ない人の一人である。「折角だからサイン貰おうかな」と背中を向けたのを見て、俺は考える。

 苗字さんは今俺のレプリカユニフォームを着ている。女性は上半身に特有の下着を着けていて、背中にサインを書こうとすればペンが引っかかってしまうだろう。かといって子供や男性にするように体の前面にサインするわけにはいかない。女性には胸がある。

「脱いでください」

 レプリカユニフォームにサインするにあたり手っ取り早いのは、ユニフォームを脱いでもらうことだ。俺が言うと、場が静まり返った気がする。先程まで自らの知り合いと話していたチームメイトでさえ、こちらを見ている。

「何言って……」

 俺達のユニフォームは白だ。かなり透ける素材でもある。下に何も着ていないわけではないだろう。何も着ていなかったら、それはそれで苗字さんに怒りの感情を覚える。

「苗字さんだと、直にサインするのにどうしても意識するっつーか」

 だから、脱いでください。俺がそう言うと、苗字さんは自らの体を守るように腕を交差させた。セクハラしないためにそう言っているのに、どうして俺がセクハラをしたみたいになってしまっているのだろう。